セアロ108の言葉



この本が出版されたのは2003年4月8日。その日より少し前に自宅のポストに届けられた本を

ポストから取り出し、そのまま電車に乗った日をいまでも覚えています。

がんの末期の日々を過ごす方のお宅へ伺い、ご本人とご家族の精神的なサポートをするための道のり。

 

満開の桜が車窓に見える中央線の電車の中、読み進める私にためらいがちな声がかかりました。

 

「すみません、その本の題名を教えていただけますか…」

 

隣を見ると声の主は40代半ばの会社員風の男性でした。

新しい本に挟まる注文用紙の細長い紙を渡した私にその男性はこう言いました。
「すみません、ふと目に入った本の内容に心をうたれて、
一緒に読んでしまっていました…じつは仕事でとても辛い出来事があって…
失礼とは思ったのですが、すみません、すみません」
その方の張り詰めた空気に書名の書かれた紙片をわたしたものの、
まだ本屋さんに並んでいないその本に気がつき、ちょっとした逡巡の後に、まだ半分しか
読んでいなかった本をそのまま渡してしまった春。

 

 

いつか朗読してみたい、と思ったのはこの出来事があったからなのかもしれません。

 

すぐに書店で買えないことをお伝えしたときに一瞬落胆し、そして私が差し上げます、と差し出した本を
申し訳ないから頂けません、と何度も断られながら、最後はうれしそうに受け取って下さったあの方…、
お元気でしょうか。

 

そして、このことを手紙にしたため、再度注文をした私の元に二冊の本が届けられました。

注文したのは一冊だったのに。

出版社から本と一緒に添えられた手紙にはこうありました。

 

「また、そんなことがあるといけませんから、もう一冊お贈りします」…と。

 

あれから10年、深遠なこの言葉をようやく朗読作品にすることができました。

そして22作品全ての作品ができたところで「セアロ108の言葉」朗読CD制作プロジェクトがはじまりました。

詳しくは朗読の小瓶をクリックしてください。

 

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